10-⑥ 不安の扱い方
<不安の扱い方>(P250✔︎)
-なぜそんなことでイライラするのか
不安は空虚感から起こる。もしあなたが、空虚感を充分に意識し、抵抗せず、またそこから逃げようとはせず、ただ空虚に気づいてさえおれば、それはなにか新しいものに変っていく。ただしこの新しいなにものかを経験しようと望んではならない。ただ空虚を意識するのだ。そうすればマジックはおのずから起こる。
その空虚さを彼自身から隠そうとして人為的な活動を死にものぐるいに造りだす人は、「だが次に何をしたらよいか、いいものが見つかるだろうか?」という彼自身の衝(つ)きあげてくる問いに恐れおののく。ここでもまた、この状態に鋭く気づいていることが、苦しみにみちた神経の昂(たか)ぶりと人為的活動との両方を破壊していく有効なスタートとなる。
意識性というものにわれわれの気づいていないもろもろの圧力を破壊する力があると知ることは素晴しいことだ。圧力(プレッシャー)は、われわれがそれを意識していないから、われわれを苦しめる力をもつのだ。圧力というものの大多数は水面下の雷のようなもので、気づかずに船がそこへ来ると、爆破する。気づかれない不安のひとつに、他の人々が恵まれているのに、自分だけが退けものにされていると思いすごす妄想がある。われわれは高い給料とか長い休暇とかをもらっている人を羨しがり、自分だけが瞞(だま)されていると感じる。それに気づくことで、このような自虐から自由になる。
びっくりするような実験を教えてあげよう。こんど、ある人があなたに、自分がどんなにイライラしているか、困っているかを告げたら、こう答えてやってごらんなさい、「状況は正にあなたのいう通りかもしれない。しかし、なぜそのことでそんなにイライラするのか教えてくれませんか?」と。
彼があなたの質問をほんとうに聞いたら、ドキッとするだろうことは間違いない。彼は返事をするだろうが、答えは決して冷静でも正確でも現実的でもないだろう。感情は昻(たか)ぶり、吶(ども)り、顔をしかめ、あるいは溜息をつきながら答えるに違いない。
彼の答えが現実的でないのは、現に、彼がイライラしなければならぬ理由はないからである。彼には分らないというだけではない。リアリティを直視すれば、そんな理由は存在しないのだ。だからして彼は、彼の混乱した情動と、人生についての誤ったアイディアの両方にもとづいた、非現実的な返答しかできないのである。
イエス、老子、ソクラテス、その他、達人といわれた教師のすべてが諭(さと)した、まさにその教えがここにある。
「なにものについても思い煩(わずら)うな」
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