1-④ 人生の真の目的
<人生の真の目的>(P26〜✔︎)
-本来の自己に還ること
蒙味(もうまい)を脱した人はしばしば、非実際的なことを考えている夢想家だと非難される。私は自分の講演会でこうした批判を耳にすることが多いので、ときどき、オブラートで包まず、ズバリと現実生活の実態を言ってやることにしている。
事実を調べてみると、夢想家という非難が当らないことが多い。ヘンリー・デーヴィッド・ソローは、一部の人々からは実務に疎い(うとい)怠け者のように思われているが、親から受け継いだ鉛筆と石墨を扱う商売でずいぶん達者であったようだ。プラトンはエジプトの顧客たちに物を売って成功したセールスマンであった。ヤコブ・ベーメ(ドイツの哲学者1575〜1624)は天才的な神秘主義哲学者ともてはやされているが、同時に彼の故郷ゲルリッツでは大した商売人であり、靴屋として知られていた。アメリカの自然哲学者ジョン・バーローズ(1837〜1921)は有能な銀行監査役であった。
すべては価値観の問題である。あなたは何を価値あることと思うか?これに対する答えは、その人が彼の心的な通貨、つまり彼の内的な思想をどう消費するかであろう。
贋(にせ)ものの価値とは何か?
たとえばある男が、俺の生活は毎日ジャガイモを食べなくてはやっていられないという変な妄想にとらわれていたとする。他の食品はふんだんにあるのに、彼はただジャガイモへの非現実的な情熱に執着している。
この男が多くの悩みに巻きこまれることは必定(ひつじょう)である。彼はジャガイモを制限するような恐れのある人に対しては批判的で疑い深く、喧嘩ごしになるのである。彼は当然「ジャガイモ保護者協会」の理事にでもなれば満足だろう。
滑稽か?だが人間というものは、もっともっとおかしな大義を後生大事に守ってきているのだ!
バカバカしいか?バカバカしい話ではあるが、彼はその人生を賭けてジャガイモのために戦っているのだということを忘れてはならない。
こうした男がどうすればその愚挙(ぐきょ)に目覚めて、その苦悩を一掃できるか?まず彼は自分の苦悩にイヤ気がさしてこなくてはならない。イヤ気がさしてくれば、彼は他に試してみる気になる。そして次第にジャガイモなしで生きられるようになり、ついにみずからの力で真理が見えてくる。ジャガイも熱病(フィーバー)はおのずと消えていく。およそ人為的な、まやかしの価値観が崩れ去る基本的パターンはこれだ。
次に掲げるひとりの研修生と私との問答は、あなたの追求する宇宙的な目標を示唆してくれる-
Q どうすれば自由になりたいという願望をつくりだせるでしょうか?
願望をつくりだす必要はありません。あなたはすでにもっているのです。実際問題として、あなたはどう踠(もが)いてもこの願望からは逃げられないのです。あなたの役割はそれに気づくこと、この願望の呼びかけにますます強く耳を澄ますようになること、そして呼びかけに、大きな声でイエスと答えることです。
Qだけどなぜそれがこんなに難しいんでしょう?
難しいというのは、易しいということが分らないからです。ちょうど発動機があることに気づかずに、一所懸命にボートを漕いでいるようなものです。もし気ちがいのように漕ぐのをやめ、ひょっと頭をめぐらせれば、モーターが見えるのです。あなたは何もする必要はない、ただあるものを見ることです。禅の教えの根本はそれなのです。
Q しかし勉強しなければならぬものがずいぶんあるんでしょう?
A 勉強しなければならない原理原則をどっさり渡されたって気にすることはありません。当分ただ自分にできるだけそれらを気をもまずに、気楽に吸収していくことです。漏斗(じょうご)の入口に詰まったおはじき玉みたいなもので、やがてはひとつひとつ穴から出てきて、はっきりと見え、理解されてゆきます。
Q わたしの人生の目標とは何かということほど迷わされるものはありません。自分の大目的さえはっきりできたら、ずっと息がらくになると思うのですが・・・
A大丈夫ですよ、らくに息をつきなさい。あなたの外部的な世界では、なんでも好きな目標を選びなさい。鉄工会社の重役をめざしてもいいし、アーチストになることでもいい、世界旅行家も結構でしょう。なんという差異はありません。ただあなたの内的な世界については、あなたの天来自然の自己へ還ること以外の目標をもとうなどと決して考えてはなりません。これが大目標であって、これが狂っては一大事です。
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