13. 知識を落とす Dropping Knowledge
あなたは偽りを落として、借りものの知識を落として、自分の知恵のなかに、自分の理解のなかに入ってゆく用意ができています。
ナロパは偉大な学者、偉大な神学者だった———この物語は彼が光明を得る前に起こった。彼は一流の大学の副学長で、彼自身の弟子が一万人いたと言われている。ある日、彼は自分の弟子たちに囲まれて坐っていた。彼のまわりじゅうに、非常に古い、めったに見られない何千もの教典がばらまかれていた。
突然彼は眠りに落ち、ヴィジョンを見た。それはあまりにも意味が深かったので、夢と呼ぶにはふさわしくなかった———それはヴィジョンだった。
彼は非常に年取った、醜い、見るからに恐ろしい女性、鬼婆(おにばば)を見た。彼女の醜さがあまりにもすさまじかったので、彼は自分の夢の中で震え始めた……。
彼女はたずねた。「ナロパ、お前はなにをやっている? 彼は言った。「私は学んでいるのだ」
「なにを学んでいる?」その年老いた女性はたずねた。 彼は言った。「哲学、宗教、認識論、言語学、論理学……」
老婆はたずねた。「それがわかるのか?」 ナロパは言った。「……そうだ、私はわかる」
その女性はもう一度たずねた。「お前はことばがわかるのか、それとも意味がわかるのか?」
しかも彼女の眼は非常に深く見入る力をもっていたので、嘘をつくのは不可能だった……彼女の目を前にして、ナロパは自分が完全に裸なのを、見透かされているのを感じた。
彼は言った。「私はことばを理解します」
その女性は踊り始め、笑い始めた……と、彼女の醜さは変容された。微妙な美しさが彼女の存在から出て来始めた。
ナロパは考えた。「私は彼女をあれほど嬉しがらせたのだ。もう少し幸せにしてあげてもよいのではないか?」 そこで彼は言い添えた。「はい、私は意味も理解します」
その女性は笑うのをやめた。踊るのをやめた。彼女はすすり泣き、泣き叫び始めた。すると彼女の醜さがすべて戻っていた———何千倍にもなって。
ナロパはたずねた。「なぜなのです?」
その女性は言った。「お前のような偉大な学者が嘘をつかなかったので私は幸せだった。だがいま、お前が私に嘘をついたので、私は泣いている。お前が意味を理解していないのを私は知っているし、お前も知っている」
ヴィジョンは消えた———そしてナロパは変容された。彼は大学を去った。生涯二度と再び彼は教典に触れなかった。彼は理解した……。
知恵の人、理解の人には新鮮さがある。神学者、知識の人とはまったくちがった香りを放つ生がある。意味を理解する人は美しくなる。ことばだけを理解する人は醜くなる。そしてその女性は、知識を通して醜くなったナロパの内なる部分、彼自身の存在が映し出されたものにすぎなかった。
ナロパは探究に入った。もう教典は役に立たない。いまや生きたマスターが必要だ。
YOGA : THE ALPHA AND THE OMEGA, Vol.5, pp.51-53
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